令和7年度 火災発生時の総合避難訓練
「病院で火災が起こる?」なかなか想像しにくいことかもしれません。
様々な機能を備え、患者さんをはじめ多くの方々が利用する病院においては、当然のことながら、火災を起こさないための万全の対策が取られています。しかし実際には、どんなところにも火災リスクとなり得る要因がたくさんあります。
万が一、院内で火災が発生した場合、職員は自身の安全を確保しつつ、患者さんの安全を守るために一人ひとりが即座に対応して適切に行動できることが求められます。
そのために重要なのが「火災発生時の総合避難訓練」です。平時から訓練を重ねることで、災害時の混乱を最小限にとどめ、職員の冷静な判断と適切な行動につながります。当院では消防法に基づき、年2回以上の消防訓練を実施し、いざというときに備えています。
「医療と防災」の31回目では、令和7年11月に実施した総合避難訓練(病棟火災避難訓練、自衛消防組織総合訓練)についてご報告します。
病棟火災避難訓練
今年度の病棟火災避難訓練は、11階北病棟と8階南病棟の2病棟で実施し、病棟医師・看護師のほか、他病棟の医師やメディカルスタッフが参加しました。
訓練開始前には、エアストレッチャーと今年度新たに導入されたシーツ搬送のデモンストレーションを行い、搬送方法の確認を行いました。
シーツ搬送とは、歩行不能な要救助者をシーツで包み、引きずる形で移動させる搬送法です。状況によって、2~4名で協力して搬送します。


続いて行われた訓練では、病棟で火災が発生したとの想定のもと、アクションカード※に沿って、責任者および避難誘導リーダーの指示を受けながら、火元の特定、消火器・消火栓を用いた初期消火、避難誘導と患者移送、本部への避難状況の報告まで、一連の流れで実施しました。
今年度は新たな取り組みとして、ナースステーション内の副受信機の鳴動を聞きつけ、副受信機の表示画面と警戒区域図一覧を照らし合わせて火元エリアを特定する手順を訓練に組み込みました。
また、模擬の患者も導入することで、実際の病棟患者数を想定した避難誘導・移送を行うことができ、よりリアリティのある実践的な訓練となりました。
※アクションカード:災害時の行動指標が役割ごとに時系列で記されたカード




今回の訓練を通じて、病棟それぞれの特性に基づく課題を再確認できました。
11階北病棟には、免疫低下患者さんや輸血・抗がん剤投与中の患者さんが多く、どう投与中に避難してもらうか、また、8階南病棟では、担送を必要とする患者さんが多いため、いかに効率的かつ安全に移送するかを重要なポイントとして、訓練の中でも意識しました。
このように、災害時には各病棟の特徴を踏まえた対応が求められます。
参加病棟の看護師長コメント
「スタッフもしっかり役割を担い対応しており、とても心強く頼もしく感じました。今後も多くのスタッフが訓練に参加し体感していただきたいと思いました。引き続き、病棟でもアクションカードを用いた訓練をしていきたいと思います。」
(11階北病棟師長)
「病棟の防煙スクリーンや防火扉が閉まり、メンバーの動きが把握しづらい状況となり、不安を感じました。今後は、こういった状況下での役割分担や情報共有のルートを再確認し、火災時の対応をさらに強化していきたいです。」
(8階南病棟師長)
自衛消防組織総合訓練
自衛消防組織とは、病院や学校などで火災などの災害が発生した際に、職員が自らの施設や人命を守るために組織する防災組織のことで、消防法に基づき、一定規模以上の事業所に設置が義務づけられています。
当院も火災など万が一の際は、この義務に則って自衛消防組織を設けて対応する必要があります。そこで、自衛消防組織総合訓練として定期的にその設置や機能についても訓練を行っています。
自衛消防組織総合訓練では、まず消防用設備に関する講義と各班での机上訓練を行い、その後、外来棟正面玄関前(最終避難場所)に移動し、実動訓練を実施しました。
机上訓練では、統括管理者、総括・通信連絡班、初期消火・物資班、避難誘導・安全管理班、医療・救出救護班、施設調査班に分かれ、アクションカードを見ながらそれぞれの任務の確認を行いました。
今回は特に、本部用アクションカードを初めて導入し、より実際の災害対応に近い形で役割を整理することができました。
引き続き行った実動訓練では、外来棟正面玄関前にて自衛消防本部を設立し、無線を用いて病棟や各班と連絡をとりながら、火災状況の把握、消防職員への伝達、避難者対応などを進めました。
訓練後の参加者アンケートからは、「無線機の操作が難しかった」や「病棟との情報伝達が円滑にいかなった」といった意見が寄せられました。
今後は、現場と本部のスムーズな連携を図るため、火災対応マニュアルの見直しや、無線機操作の訓練の実施に取り組み、今回の振り返りを確実に活かしたいと考えています。




消火体験
いざというときに備え、消火器や消火栓の正しい使い方を理解しておくことも重要です。
全員の総合避難訓練が終了した後、津市北消防署、日本空調サービス会社の皆さまのご協力のもと、水消火器および消火栓の操作体験を行いました。


今回の訓練には、120名余りの教職員が参加しました。火災対応は、初動の数分間に職員がどれだけ迅速に行動できるかにかかっています。現場で実際に体験してこそ、いざというときに実践へ活かすことができます。今後も訓練を重ね、有事の際に誰もが行動できる病院づくりを目指してまいります。
災害対策推進・教育センター担当:[舞野]
三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。




