いろいろな病気と治療

脂肪肝

肝硬変や肝がんへの進展リスクを避けるためには?

消化器・肝臓内科
科長 教授 中川勇人

「脂肪がたまっているだけ」と思われがちだが、放置すると重い病気につながることがある

脂肪肝とはどういった病気なのですか。

脂肪肝とは、肝臓に過剰な脂肪が蓄積した状態を指します。

大きくは、メタボリック症候群として知られる「代謝異常」に関連するものと「過度な飲酒習慣」を背景にするものの2つに分けられます。

それぞれ違った特徴があるのでしょうか。

まず、代謝異常に関連した脂肪肝についてですが、これは、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった「メタボリック症候群」に関連して起こります。

以前は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていましたが、現在は「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」という名前に変わっています。

その中でも、特に過剰な脂肪蓄積により炎症を伴う場合は「代謝異常関連脂肪肝炎(MASH)」と呼ばれ、放っておくと肝硬変や肝がんに進む危険があります。

さらにMASLDでは、肝臓の病気にとどまらず、心筋梗塞や脳卒中といった心臓や血管の病気のリスクも高くなることが知られています。

それに加えて、過度な飲酒が原因となるものもあるのですね。

長期間にわたりお酒を飲みすぎると、肝臓での脂肪代謝に異常をきたし、脂肪肝になります。これを「アルコール性脂肪肝」と言います。

リスクとされるアルコール量は1日60g以上で、日本酒だと3合、ビール中びんで3本程度以上を毎日飲み続けるイメージです。ただし、それ以下でも飲酒量が増えるにつれて肝臓病が進むリスクが高まります。

アルコール性脂肪肝も進行すると肝硬変や肝がんにつながります。近年の研究では、アルコール性脂肪肝の方が肝臓の病気がより進みやすいことがわかっています。

飲酒習慣にひもづいたメタボリック症候群の方もいます。

実は、メタボリック症候群があり、かつ飲酒習慣もある人にできる脂肪肝を「代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)」として新しく分類する考え方も出てきました。このような場合、肝臓病がより進みやすいと考えられています。

またそれ以外に、タモキシフェン(ホルモン療法に使われる薬剤)など一部のお薬が原因となって脂肪肝になることがあります。

図表1:脂肪肝の分類

どのような症状が見られるのでしょうか。

脂肪肝は「沈黙の臓器」といわれる肝臓に起こるため、初期の段階ではほとんど症状がありません。これが脂肪肝の怖いところです。

症状が出るのは脂肪肝が進行して肝硬変になってからで、腹水(お腹に水がたまる)、むくみ、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)などさまざまです。そこまで進んでから気づいていては、治療の手立てがないという場合も出てきます。

そのため、自覚症状がなくても健康診断を受け、肝機能の状態を示すASTやALT1などの数値を定期的にチェックすることがとても大切です。

2023年に出された『奈良宣言2』では、血液検査でALTが30を超える場合は、一度かかりつけ医で相談することが推奨されています。基準値を少し超える程度でも、油断せず医師にご相談ください。

1)AST・ALT
ASTやALTは肝臓に多く含まれる酵素で、肝炎や脂肪肝などがあると血液中に多く放出。
ASTやALTを含む肝胆道系酵素については、Online MEWS「健康ひとことアドバイス」でも解説しています。

2)奈良宣言
2023年6月、日本肝臓学会が肝疾患の早期発見・早期治療を目的として行った提言。奈良で開かれた総会で宣言されたことがその名の由来。

「脂肪肝が肝硬変や肝がんにつながる」という話がありましたが。

脂肪肝は「脂肪がたまっているだけ」と思われがちですが、放置するとより重い病気につながることがあります。

肝臓に脂肪がたまった状態が続くと、肝細胞が壊れて死んでしまい、それを修復しようと炎症が起こります。その結果、肝臓の中に線維が少しずつ増えて、肝臓が硬くなっていきます。これを「線維化」と呼び、進んだ状態が肝硬変です。

特に、炎症を伴う脂肪肝(MASH)では、放置すると将来およそ10〜20%が肝硬変に進むと言われています。

そして、肝臓の線維化が進むにつれて肝臓がんを発症する危険も高まり、肝硬変になると年率の発がんリスクが1~3%と言われています。

また、肝臓は体の代謝を担う重要な臓器です。脂肪肝によって代謝が乱れると、糖尿病や動脈硬化を進めるリスクが高まります。さらに、大腸がんなど肝臓以外のがんのリスクも高くなることが報告されています。

つまり脂肪肝は、肝臓だけでなく全身の健康に影響を及ぼす可能性がある病気と言えます。

図表2:脂肪肝(MASLDとMASH)の進展

脂肪肝は重症疾患のリスクになっているようですが、患者さんは多いのですか。

実は、脂肪肝は成人の20〜30%にみられるとされる非常に一般的な病気です。さらに、国内の患者数は増えています。背景には、食生活の欧米化による高カロリー食の摂取や運動不足に伴う肥満人口の増加があります。

男性では全年齢層にみられ、最近は、若い世代でも脂肪肝が指摘されるケースも増えてきています。一方、女性では特に閉経を迎える中年以降に増える傾向があります。

脂肪肝に対しては、どのような治療が行われるのですか。

治療の中心は生活習慣の改善です。具体的には、食事、運動、体重管理、飲酒制限の4つです。

食事カロリーを抑え、野菜や良質なたんぱく質を含むバランスの良い食事を心がける。
運動週150分程度の有酸素運動や筋力トレーニングが効果的。
体重管理5〜10%の減量によって肝臓の脂肪量や炎症が改善することが知られている。
飲酒制限お酒は脂肪肝を悪化させるため、控えることが大切。
図表3:脂肪肝の治療としての生活習慣の改善項目

また、糖尿病や高血圧、脂質異常症などを合併している方は、これらの病気の治療と並行して脂肪肝の治療を行うことが重要です。全身の病気をまとめて管理することが、肝臓の改善にもつながります。

薬剤などの治療法は取られないのでしょうか。

現在、日本で脂肪肝に対して正式に承認された薬はありません。

ただし、糖尿病や脂質異常症の治療薬の一部(GLP-1作動薬、SGLT2阻害薬、ペマフィブラートなど)が脂肪肝にも効果を示すことが報告されています。また、肥満が極めて高度な場合には、減量手術が選択されることもあります。

それよりも生活習慣の改善がいの一番なのですね。

はい。それによって肝臓の脂肪を減らすことができ、炎症や線維化の進行を抑えることも可能です。早い段階であれば「元の健康な肝臓に戻る」ことも十分に期待できます。

診断・生活習慣指導・薬物治療・研究のすべてを含む包括的体制が当院の大きな強み

三重大学病院では、どのように脂肪肝の治療に取り組んでいますか。

当院では、まず設備として、簡便かつ高精度に肝臓の硬さ(肝硬度)を測定できる FibroScanに加え、最も高精度に測定できるとされる MRエラストグラフィ を導入しています(写真1)。

特に、MRエラストグラフィは肝臓全体の硬さを視覚的に評価できる最新技術で、2022年4月に保険収載されました。三重大学病院は県内で唯一の認定施設として、同年にいち早く導入しました。

写真1:MRエラストグラフィ

状態を正確に把握することが、生活習慣の改善を含めた治療計画には有効なのですね。

そうです。両検査はいずれも肝臓に蓄積した脂肪量の測定が可能であり、脂肪肝の改善や悪化を経時的にリアルタイムで追跡できる点も大きな特徴です

こうした正確な診断から治療までを、消化器内科医を中心に、放射線科、病理診断科、栄養科など多職種が連携するチーム医療で行っています。

また、脂肪肝は糖尿病や高血圧、脂質異常症などを合併することが多いため、内科全体として包括的に診療を進められる体制が整っています。

管理栄養士による生活習慣改善プログラムも充実しており、治療の基本である食事・運動療法を継続的にサポートしています。

新たな治療法の開発など、脂肪肝について取り組んでいることはありますか。

これまでも三重大学は全国的にもMASLDや肝がんの研究で多くの成果を挙げており、最新の知見を診療に還元してきました。現在も脂肪肝の個別化医療に関する研究を精力的に行っています。

直近では、人工知能(AI)を用いて肝生検の線維形態を解析し、将来の発癌リスクにつながる特徴を見出すとともに、その背景に潜む分子メカニズムを明らかにしました。この成果は、肝臓学の国際的権威誌である Hepatology に掲載されました(https://www.mie-u.ac.jp/news/topics/2025/04/-ai.html)。

さらに現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援による国内多施設共同研究を通じて、1000例を超える肝生検検体の網羅的解析を進めています。これにより、脂肪肝の病態解明、新しい診断法・治療法の開発に取り組むとともに、AIや最先端テクノロジーを駆使した個別化医療(プレシジョンメディシン)の実現を目指しています(図4)。

図表4:脂肪肝に対する個別化医療(プレシジョンメディシン)

この他にも、現時点で治療選択肢として有効な薬剤が限られている中、新規薬剤の治験にも積極的に参加しています。条件を満たす方は、有望な薬剤による治療を当院でいち早く受けられる可能性があります。

このように、診断・生活習慣指導・薬物治療・研究のすべてを含む包括的体制が当院の大きな強みであり、今後も脂肪肝の治療につながる取り組みを積極的に進めていきたいと考えています。

最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

脂肪肝は放置すると、肝硬変や肝臓がんへと進行する可能性がある怖い病気です。健康診断などで肝機能異常や脂肪肝を指摘された場合は、早めに医師の診察を受けることをおすすめします。

三重大学病院では、経験豊富な専門医が最新の設備を用いて丁寧に診療を行っていますので、少しでも不安があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。

消化器・肝臓内科
科長・教授 中川勇人

医師を志すきっかけは、妹の血液の難病でした。実は三重大学小児科で骨髄移植を受け、命を助けていただきました。その経験から、当初は血液内科や小児科を考えていたのですが、研修を重ねる中で、内視鏡など多彩な手技によって患者さんを治すことができる消化器内科に強く惹かれるようになり、同時に肝臓という臓器の奥深さに魅了され、自然と肝臓の診療と研究にのめり込んでいきました。

私の座右の銘は「誠実・努力・情熱」です。大学入学の際に父から無理やり渡された額縁に書かれていた言葉でしたが、特に医師になってからはこの3つを常に意識して行動するようになりました。今も自宅に飾ってあり、自分を戒めるようにしています(笑)。振り返ると、この言葉が自分の成長に大きな影響を与えてくれたような気がします。
現在は診療科を統括する立場として、多くの患者さんや若い医師と向き合っています。その中で「誠実・努力・情熱」を忘れずに、日々を大切に重ねていきたいと考えています。
これからもこの思いを胸に、患者さんに安心していただける医療を心がけるとともに、最先端医療や研究の推進、そして地域医療の発展に力を尽くしてまいります。

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